2026年度から適用が始まる「新リース会計基準」について、経理・財務担当者が押さえるべき全てを網羅した決定版ガイドです。本記事を読めば、原則すべてのリース契約を資産計上する「使用権資産のオンバランス化」とは何か、図解で直感的に理解できます。なぜ会計ルールが大きく変わるのか?その結論は、リース取引の実態を財務諸表へより忠実に反映させ、国際基準との整合性を図るためです。IFRS16号との違い、B/S・P/Lへの具体的な影響、短期・少額リースの例外規定、実務で使える仕訳例まで、今から始めるべき対応準備をステップごとに徹底解説します。この記事だけで、新基準への移行に関する疑問や不安を解消します。
新リース会計基準とは 2026年度から適用される会計ルールの新常識
2024年現在、日本の会計ルールに大きな変革が訪れようとしています。企業会計基準委員会(ASBJ)が公表した公開草案「リースに関する会計基準(案)」、通称「新リース会計基準」です。この新基準は、早ければ2026年4月1日以後開始する事業年度から適用される見込みであり、企業の経理実務に大きな影響を与えることが予想されます。
これまで多くの企業で費用処理されてきたリース取引が、原則としてすべて資産・負債として貸借対照表(B/S)に計上される、いわゆる「オンバランス化」が最大の変更点です。本章では、この新リース会計基準の基本的な概要と、なぜ今、会計処理が大きく変わるのかという背景について詳しく解説します。
リース取引の会計処理が大きく変わる理由
長年親しまれてきたリース会計のルールが、なぜ根本から見直されるのでしょうか。その背景には、主に2つの大きな理由があります。
第一の理由は、国際的な会計基準とのコンバージェンス(収斂)です。すでに国際財務報告基準(IFRS)では「IFRS第16号」、米国会計基準では「ASC第842号」として、リース資産を原則オンバランス化する会計処理が導入されています。グローバルに事業を展開する企業が増える中、各国の会計基準が異なると、財務諸表の国際的な比較可能性が損なわれてしまいます。今回の改正は、日本の会計基準を国際標準に合わせ、投資家などが企業の財務状況を正しく比較・評価できるようにする重要な目的を持っています。
第二の理由は、オフバランス取引の実態を財務諸表に反映させるためです。従来の日本の会計基準では、リース取引は「ファイナンス・リース」と「オペレーティング・リース」に分類されていました。このうちオペレーティング・リースは、支払ったリース料を費用として計上するだけで、貸借対照表には資産や負債が計上されませんでした(オフバランス取引)。しかし、実態としては多額のリース料支払い義務という負債を抱えているにもかかわらず、それが財務諸表に現れないため、投資家が企業の本当の財政状態を把握しにくいという問題点が指摘されていました。新基準は、この問題を解消し、企業財務の透明性を高めることを目指しています。
新リース会計基準の適用対象となる企業と契約
新しいリース会計基準は、原則としてすべての上場企業、会社法上の大会社、およびそれらの子会社・関連会社に適用されます。ここでは、具体的にどのような契約が新基準の対象となるのか、その範囲と例外規定について見ていきましょう。
原則すべてのリースが対象に
新リース会計基準の最も大きな特徴は、従来の「ファイナンス・リース」と「オペレーティング・リース」の区分を撤廃し、原則としてすべてのリース契約を統一的な会計処理の対象とする点です。
これにより、これまで費用処理(オフバランス)で済んでいたオペレーティング・リース契約、例えばオフィスの賃貸借契約、複合機や社用車のリースなども、資産(使用権資産)と負債(リース負債)として貸借対照表に計上(オンバランス化)する必要があります。企業の経理担当者は、自社が締結している契約の中に「リース」の定義に該当するものがないか、網羅的に洗い出す作業が求められます。
短期リースと少額リースの例外規定
すべてのリースを資産計上すると、企業の事務負担は非常に大きくなります。そのため、実務上の負担を軽減する目的で、特定の条件を満たすリースについては、従来通りの簡便的な会計処理(賃貸借処理)を継続することが認められています。これが「短期リース」と「少額リース」の例外規定です。
| 例外規定の種類 | 内容 | 会計処理 |
|---|---|---|
| 短期リース | リース開始日時点でリース期間が12ヶ月以内であるリース契約。購入オプションが付いている場合など、一部対象外となるケースがあります。 | 支払リース料を費用として計上(賃貸借処理) |
| 少額リース | リース対象となる資産そのものが少額であるリース契約。公開草案では具体的な金額基準は明示されておらず、個々の企業の重要性の判断に委ねられる見込みです。 | 支払リース料を費用として計上(賃貸借処理) |
これらの例外規定に該当するかどうかを適切に判断することが、新基準導入に向けた実務対応の第一歩となります。自社のリース契約をリストアップし、一つひとつをこの例外規定に照らし合わせて分類する作業が必要不可欠です。
【図解】新リース会計基準の最大の変更点 使用権資産のオンバランス化
新リース会計基準における最も重要かつ根本的な変更点は、原則としてすべてのリース契約を貸借対照表(B/S)に資産・負債として計上する「オンバランス化」です。これまで多くの企業で費用処理(オフバランス)されてきたオペレーティング・リースも対象となり、財務諸表に与えるインパクトは非常に大きくなります。この章では、変更点の核心であるオンバランス化の仕組みと財務への影響を図解のように分かりやすく解説します。
すべてのリースを資産計上する原則処理
新リース会計基準では、従来の「ファイナンス・リース」と「オペレーティング・リース」という区分が原則として廃止されます。代わりに、借手はすべてのリースについて、資産を使用する権利を「使用権資産」、将来のリース料支払い義務を「リース負債」として貸借対照表(B/S)に計上する「使用権モデル」が採用されます。
これにより、これまで注記情報でしか把握できなかったオペレーティング・リースの実態が財務諸表上に明確に表示されるようになり、企業の財政状態の透明性が高まり、投資家などが企業の実態をより正確に把握できるようになります。
| 従来の会計基準 | 新リース会計基準 | |
|---|---|---|
| ファイナンス・リース | オンバランス(リース資産・リース債務を計上) | 原則すべてオンバランス (使用権資産・リース負債を計上) |
| オペレーティング・リース | オフバランス(支払リース料を費用処理) |
使用権資産とリース負債の計算方法
オンバランス化にあたり、経理担当者が理解すべきなのが「使用権資産」と「リース負債」の具体的な計算方法です。これらはリース開始日において、以下の手順で算定されます。
1. リース負債の計算
まず、将来支払うリース料総額を現在価値に割り引いて「リース負債」を計算します。これは、将来の支払い義務を現時点の価値に換算する手続きです。
リース負債 = リース料総額の現在価値
計算要素は以下の通りです。
- リース料総額:固定リース料、指数やレートに応じて変動するリース料、残価保証額、購入オプションの行使価格などが含まれます。
- 割引率:原則として貸手の計算に用いられている利率(不明な場合は、借手の追加借入利子率)を使用します。
2. 使用権資産の計算
次に、算出したリース負債の額を基礎として「使用権資産」を計算します。リース契約に関連して発生した初期費用などを加味します。
使用権資産 = リース負債 + リース契約に直接関連する初期費用など
具体的には、リース負債の計上額に、敷金や仲介手数料といった付随費用、前払いしたリース料などを加算し、受領したリース・インセンティブ(フリーレントなど)を控除して算出します。
オンバランス化による財務諸表への影響
使用権資産とリース負債の計上は、貸借対照表(B/S)と損益計算書(P/L)の両方に大きな影響を及ぼします。特にこれまでオペレーティング・リースを多用してきた企業ほど、そのインパクトは顕著になります。
貸借対照表(B/S)へのインパクト
オンバランス化により、B/Sの資産と負債が両建てで増加します。これにより、企業の財務指標が大きく変動する可能性があります。
- 総資産の増加:資産の部に「使用権資産」が計上されるため、総資産が増加します。
- 負債総額の増加:負債の部に「リース負債」が計上されるため、負債総額も同額程度増加します。
この結果、自己資本比率(自己資本 ÷ 総資産)は低下し、負債比率(有利子負債 ÷ 自己資本)は悪化する傾向にあります。金融機関からの借入契約において財務制限条項(コベナンツ)を設けている企業は、抵触しないか事前に確認が必要です。
| 変更前(オフバランス) | 変更後(オンバランス) | |
|---|---|---|
| 資産 | (計上なし) | 使用権資産(増加) |
| 負債 | (計上なし) | リース負債(増加) |
| 総資産 | 変動なし | 増加 |
| 自己資本比率 | 変動なし | 低下 |
損益計算書(P/L)へのインパクト
P/Lにおいても、費用の計上方法が大きく変わります。従来のオペレーティング・リースでは「支払リース料」として定額で費用計上されていましたが、新基準では費用が2種類に分解されます。
- 減価償却費:計上した「使用権資産」を、リース期間にわたって減価償却します。
- 支払利息:計上した「リース負債」の残高に対して、利息を計算し費用計上します。
この変更により、以下の影響が生じます。
費用の計上パターンが「前倒し」になります。支払利息は負債残高の大きいリース期間の初期に多く計上され、徐々に減少していくため、リース期間トータルでの費用総額は同じでも、前半の費用が大きくなります。
また、支払リース料が営業費用から「減価償却費(営業費用)」と「支払利息(営業外費用)」に分解されるため、EBITDA(利払前・税引前・減価償却前利益)などの利益指標が改善する可能性があります。これは、企業の収益性分析に影響を与える重要なポイントです。
| 変更前(費用処理) | 変更後(資産計上) | |
|---|---|---|
| 計上される費用 | 支払リース料 | 減価償却費 + 支払利息 |
| 費用の特徴 | リース期間中、ほぼ定額 | リース期間前半に費用が大きく、後半に減少 |
| EBITDA | 変動なし | 増加する傾向 |
日本の新リース会計基準とIFRS16号の主な違い
日本の新リース会計基準は、国際的な会計基準である「IFRS第16号(以下、IFRS16号)」を基礎として開発が進められています。そのため、基本的な考え方や会計処理の枠組みは非常に似通っています。しかし、日本の会計実務や慣行を考慮した結果、いくつかの重要な差異が設けられる見込みです。ここでは、先行して導入されているIFRS16号の概要を確認しつつ、日本の新基準との違いを明確に解説します。
IFRS16号の概要
IFRS16号は、国際会計基準審議会(IASB)が公表したリースに関する会計基準で、2019年1月1日以降に開始する事業年度から強制適用されています。この基準の最大の特徴は、これまでオフバランス処理が認められていたオペレーティング・リースを含め、ほぼすべてのリース契約を借手の貸借対照表(B/S)に資産・負債として計上(オンバランス化)する「単一の会計モデル」を採用した点です。これにより、企業の隠れた債務ともいえるリース契約の実態が財務諸表に反映され、財務分析の有用性や企業間の比較可能性が向上しました。
日本基準とIFRS16号の比較ポイント
日本の新リース会計基準(公開草案)とIFRS16号は、使用権資産をオンバランス化するという点で本質的に同じ方向を向いていますが、細かな規定には違いが見られます。経理担当者としては、これらの差異を正確に理解しておくことが、スムーズな移行の鍵となります。以下に主要な比較ポイントを表でまとめました。
| 比較項目 | 日本の新リース会計基準(公開草案) | IFRS16号 |
|---|---|---|
| 基本的な会計モデル(借手) | 単一モデル(使用権モデル)を採用。原則すべてのリースをオンバランス化する。 | 単一モデル(使用権モデル)を採用。原則すべてのリースをオンバランス化する。 |
| 短期リースの例外規定 | リース期間が12ヶ月以内のリースについて、オンバランス化しない簡便的な処理を選択可能。 | リース期間が12ヶ月以内のリースについて、オンバランス化しない簡便的な処理を選択可能。 |
| 少額リースの例外規定 | 原資産が少額(金額基準は今後の議論で決定)であるリースについて、オンバランス化しない簡便的な処理を選択可能。 | 原資産が新品時に少額(例:5,000米ドル以下)であるリースについて、オンバランス化しない簡便的な処理を選択可能。 |
| 貸手の会計処理 | 従来のファイナンス・リースとオペレーティング・リースに分類する会計処理を基本的に踏襲。 | 従来のIAS第17号の会計処理(ファイナンス・リースとオペレーティング・リースへの分類)をほぼ踏襲。 |
| 適用開始時期 | 2026年4月1日以後開始する事業年度からを想定(早期適用も可能となる見込み)。 | 2019年1月1日以後開始する事業年度から強制適用済み。 |
| 経過措置 | 原則法(すべてのリースに遡及適用)に加え、簡便法(適用開始日以降の契約にのみ適用など)も認められる見込み。 | 複数の簡便的な経過措置が認められている。 |
表で示した通り、両基準の基本的な枠組みは酷似しています。しかし、特に注意が必要なのは、少額リースの金額基準や経過措置の詳細な内容です。IFRS16号では少額リースの基準として5,000米ドルという具体的な例示がありますが、日本の新基準でどのような金額が設定されるかは、今後の正式決定を待つ必要があります。また、適用初年度の会計処理に大きく影響する経過措置についても、自社にとってどの方法が最も実務負担が少なく、かつ財務インパクトを適切に管理できるか、事前のシミュレーションが不可欠となるでしょう。
経理担当者が押さえるべき実務ポイントと対応スケジュール
新リース会計基準の適用開始は2026年度からと少し先ですが、その影響範囲は広く、準備には相応の時間がかかります。特に、これまでオフバランス処理が可能だったオペレーティング・リースも原則として資産計上が必要になるため、経理部門の業務プロセスや会計システムに大きな変更が求められます。ここでは、経理担当者が今から着手すべき実務上のポイントと、具体的な対応スケジュールをステップごとに解説します。
新リース会計基準導入に向けた準備ステップ
新基準への移行を円滑に進めるためには、計画的な準備が不可欠です。大きく分けて「リース契約の網羅的な把握」「会計方針の決定」「業務フローとシステムの変更」という3つのステップで進めることが推奨されます。
ステップ1 リース契約の網羅的な把握
新基準対応の第一歩は、自社が締結しているすべてのリース契約を正確に洗い出し、その内容を詳細に把握することです。本社だけでなく、支社や営業所、工場などが個別に契約しているケースも想定されるため、全社横断的な調査が必要となります。
具体的には、以下の情報を契約書や関連資料から収集し、リース管理台帳として一元管理することが重要です。
- 契約の対象となる資産(コピー機、PC、車両、不動産など)
- 契約開始日と終了日(リース期間)
- 月額または年額のリース料
- 更新オプションや解約オプションの有無とその条件
- リース料に含まれる保守サービスなどの非リース要素の有無と金額
- 所有権移転条項や割安購入選択権の有無
この作業は、新基準における「使用権資産」と「リース負債」の計上額を算定する基礎となるため、最も時間と労力を要する重要なステップです。
ステップ2 会計方針の決定
次に、収集した契約情報をもとに、自社の会計方針を決定します。新リース会計基準では、企業の判断に委ねられる項目がいくつか存在するため、事前に方針を固めておく必要があります。
主な検討事項は以下の通りです。
- 例外規定の適用判断:「短期リース(リース期間が12ヶ月以内)」や「少額リース(重要性の低い少額の原資産のリース)」の例外規定を適用するかどうかを決定します。適用する場合、少額と判断する具体的な金額基準(例:50万円以下など)も設定する必要があります。
- 割引率の算定方法:リース負債の計算に用いる割引率を決定します。原則として、貸し手の計算利子率を使用しますが、それが不明な場合は、企業の追加借入利子率(安全な利率に信用スプレッドを上乗せするなど)を合理的に算定する必要があります。
- 非リース要素の分離:リース契約に含まれる保守料などの非リース要素を、リース料と分離して会計処理するか、一体として処理するかを選択します。
これらの会計方針は、一度決定すると継続的な適用が求められるため、自社の実態や管理コストを総合的に勘案し、慎重に検討することが重要です。監査法人とも事前に協議しておくとよいでしょう。
ステップ3 業務フローとシステムの変更
会計方針が固まったら、それを実行するための業務フローと会計システムの整備に着手します。新基準では、リース契約締結時から資産・負債を計上し、その後は減価償却と支払利息の計算を毎期行う必要があるため、従来の費用処理のみのフローでは対応できません。
見直しが必要となる主な業務フローとシステム要件は以下の通りです。
| 項目 | 主な変更内容 |
|---|---|
| リース契約管理 | 契約情報を一元管理し、会計処理に必要なデータをタイムリーに収集・更新する仕組みを構築する。リース管理システムの導入や既存システムの改修を検討する。 |
| 会計処理 | 使用権資産とリース負債の計算、減価償却費と支払利息の計上、リース料支払時の仕訳などを自動化できる会計システムの機能追加や改修を行う。 |
| 決算・開示 | 拡充される注記情報の作成を効率化するため、必要なデータをシステムから自動で集計・出力できるレポート機能などを整備する。 |
特に会計システムの対応は、要件定義から開発、テストまで時間がかかるため、早期にITベンダーとの協議を開始することが望まれます。
具体的な仕訳例で見る会計処理
新リース会計基準における会計処理のイメージを掴むため、具体的な仕訳例を見ていきましょう。ここでは、これまでオフバランス処理されていたオペレーティング・リースを想定します。
【設例】
- 年間リース料:120万円(毎期末払い)
- リース期間:5年
- 割引率:3%
- 使用権資産・リース負債の当初計上額:5,518,178円(※簡便化のため計算済の金額)
| タイミング | 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|---|
| リース開始時 | 使用権資産 | 5,518,178 | リース負債 | 5,518,178 |
| 1年目決算時 (減価償却) | 減価償却費 | 1,103,636 | 使用権資産減価償却累計額 | 1,103,636 |
| 1年目決算時 (利息費用) | 支払利息 | 165,545 | リース負債 | 165,545 |
| 1年目末 (リース料支払時) | リース負債 | 1,200,000 | 現金預金 | 1,200,000 |
このように、リース開始時に資産と負債を計上し、決算時には減価償却費と支払利息をそれぞれ費用計上します。従来のオペレーティング・リースのように、リース料をそのまま費用計上する処理とは大きく異なることがわかります。
開示要求事項の変更点
新リース会計基準では、財務諸表の利用者(投資家など)が企業のリース活動の実態をより深く理解できるよう、注記による開示情報が大幅に拡充されます。経理担当者は、これらの開示要求事項を正確に理解し、決算時に必要な情報を収集・集計できる体制を整える必要があります。
新たに追加または詳細化が求められる主な開示項目は以下の通りです。
| 開示情報の種類 | 具体的な開示項目例 |
|---|---|
| 定量的情報 |
|
| 定性的情報 |
|
これらの情報を正確に開示するためには、日々のリース契約管理と会計処理の段階から、開示を意識したデータ収集・管理が不可欠となります。
新リース会計基準に関するよくある質問 Q&A
新リース会計基準の導入にあたり、多くの経理担当者が抱える疑問について、Q&A形式でわかりやすく解説します。自社の状況と照らし合わせながら、具体的な対応を検討する際の参考にしてください。
いつから強制適用されますか
新リース会計基準の強制適用は、2026年4月1日以後開始する事業年度の期首からとされています。例えば、3月決算の企業であれば、2027年3月期の期首(2026年4月1日)から適用が開始されます。
ただし、準備が整った企業は、2024年4月1日以後開始する事業年度の期首から早期適用することも可能です。自社のシステム対応やリース契約の把握状況などを踏まえ、最適な適用時期を検討する必要があります。
中小企業への影響はどうなりますか
新リース会計基準は、主に上場企業や会社法上の大会社など、会計監査人の監査を受ける企業を対象としています。そのため、現時点では、会計監査を受けていない非上場の中小企業は強制適用の対象外です。
しかし、注意すべき点もあります。金融機関から融資を受ける際に、新基準に準拠した財務諸表の提出を求められたり、親会社が上場企業である場合に、連結決算のために子会社も新基準への対応が必要になったりするケースが考えられます。直接的な強制適用はなくても、将来的な影響や取引先・金融機関との関係で対応が必要になる可能性があるため、今のうちから新基準の概要を理解しておくことが重要です。
既存のリース契約はどう扱いますか
新基準の適用日より前から契約している既存のリース契約については、会計処理の負担を考慮した「経過措置」が認められています。企業は、以下のいずれかの方法を選択できます。
| 処理方法 | 概要 | 特徴 |
|---|---|---|
| 原則的な処理(遡及適用) | 過去の財務諸表を、新リース会計基準を当初から適用していたかのように修正する方法。 | ・過去の財務諸表との比較可能性が担保される ・会計処理の事務負担が大きい |
| 簡便的な処理(修正遡及アプローチ) | 適用初年度の期首に、その時点で残っているリース期間やリース料に基づき、使用権資産とリース負債を計上する方法。 | ・過去に遡る必要がなく、事務負担が軽減される ・多くの企業がこの方法を選択すると予想される |
どちらの方法を選択するかは、企業の任意です。財務諸表の比較可能性を重視するのか、実務上の負担軽減を優先するのか、自社の方針に合わせて慎重に決定する必要があります。
オペレーティング・リースとファイナンス・リースの区別はなくなりますか
はい、借り手の会計処理において、これまでのオペレーティング・リースとファイナンス・リースの区別は原則としてなくなります。これが新リース会計基準における最も大きな変更点の一つです。
従来、費用処理のみでよかったオペレーティング・リース契約も、新基準ではファイナンス・リースと同様に、使用権資産とリース負債を貸借対照表(B/S)に計上する「オンバランス化」が求められます。これにより、企業の財務実態がより正確に財務諸表に反映されることになります。なお、貸し手側の会計処理については、従来からの変更は限定的です。
例外的に資産計上しなくてよいリースはありますか
はい、すべてのリース契約を資産計上する必要はなく、実務上の負担を考慮した例外規定が設けられています。具体的には、リース期間12ヶ月以内の「短期リース」と、少額な資産の「少額リース」は、資産計上しない簡便的な会計処理が選択できます。
これらの例外規定を適用するかどうかは、企業の会計方針として決定します。どちらの例外規定も、適用した場合は従来通りリース料を費用計上(P/L計上)することになります。
| 例外規定 | 内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 短期リース | リース開始日時点で、リース期間が12ヶ月以内であることが明らかなリース。 | 購入オプションが付いている場合など、実質的に12ヶ月を超えると判断されるものは対象外です。 |
| 少額リース | リース資産が新品であった場合の価値が少額であるリース。 | 具体的な金額基準は今後の実務指針で示される予定ですが、IFRS第16号では5,000米ドル以下が例示されています。個々の資産単位で判断します。 |
まとめ
本記事では、2026年度から適用が開始される新リース会計基準について、図解を交えながら解説しました。この新基準の最大のポイントは、これまでオフバランス処理が可能だったオペレーティング・リースを含め、原則としてすべてのリース契約を資産・負債として貸借対照表(B/S)に計上する「オンバランス化」が義務付けられる点です。
この変更は、国際的な会計基準であるIFRS16号との整合性を図るものであり、企業の財政状態をより正確に反映させることを目的としています。オンバランス化により、企業の総資産と負債がともに増加し、自己資本比率などの財務指標に大きな影響を与える可能性があります。
経理担当者は、適用開始に向けて、全社内のリース契約を網羅的に把握し、会計方針を決定した上で、業務フローや会計システムの変更に計画的に着手する必要があります。短期リースや少額リースの例外規定を正しく理解することも重要です。
適用まで時間はありますが、準備には相当な工数がかかることが予想されます。本記事を参考に、早期に準備を開始し、スムーズな移行を実現してください。